私の愛しいポリアンナ






秋とみのりは至って穏やかに暮らしていたが、そんな2人にも当たり前のように変化は訪れた。
先に変わったのは秋の方だった。
変化はゆっくりと、しかし着実に秋に近づいて行って、秋はその接近にしばらく気付けなかった。
気づいた時には、手のつけようがなかった。

その変化とは、すなわち、秋の性格のある一面の変容である。

秋は元々、大抵のことは努力せずともできるタイプだったのだ。
それは観察眼があり、人の行動見て「ああすればいいんだ」という飲み込みが早いからである。
また、記憶力も良かったので勉強にも困らなかった。
覚えるところをひたすら覚えて、あとはどう知識を活用すればいいのか考えるだけだから。
人を真似るのが上手く、また記憶力も良かった秋。当然、家での稽古も要領よくこなせた。
小さい頃はたいそう期待されたものだ。
親は当然、「歌舞伎の一門の家に生まれたのだから将来は役者になってほしい」と願っていた。
秋は期待のままに稽古も舞台も十分な成果を出してきた。しかし、このまま流れに乗って歌舞伎の世界で生きていけば、それでいいのだろうか?という不安が常に設楽秋少年にはつきまとっていた。
というか、正直に言えば親と同じ職業は嫌だったのだ。勘違いしないでほしいのだが、親のことは尊敬している。

ただ、歌舞伎の世界しか知らないまま大人になるのが嫌だっただけだ。
その頃から秋の反抗期が始まっていたのだろう。
大学に入ってから実家への連絡もあまりしなくなった。
たいして興味もないサークルにも色々と顔を出してみた。そこで意外にも秋がハマったのが、株の投資サークルだったのだ。
「これはおもしろい」と、ビビッときたのだ。お金を稼げることも勿論だが、なによりもちょっとの油断で数千万を失うことさえあるスリルにハマったのだ。
ギャンブルにハマる心理もそんな感じなのだろうか。
何度か負けを経験し、その都度勉強しても予測不可能な投資の世界。破産も自殺も人ごとではなかったが、それもまた一興。
秋は不謹慎も楽しめる、善良ではない市民だった。






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