私の愛しいポリアンナ
そうして、人の真似が上手く、記憶力もいい秋は切り替えも早かった。
自分はこんな世界で生きたい、と思ったらもう、歌舞伎の世界に戻る気は一切無くなっていたのだ。
いつのまにか株で大金を動かすことから、会社でシステムを作り未来の社会を構築することにもハマりだした。もともと要領はいいので、今もうまくいっている。
そんな感じで、秋は切り替えが早く、自分の変化をあっさり認められる男だった。
今までの歌舞伎の世界を捨てて、あっさりとビジネスの世界へ飛び込んでしまえるほどに。
変化を恐れない自分であった。はず、なのだ。今までは。
その秋が、初めて自分の変化を恐れた。
無意識のうちとはいえ、彼の人生では初めてのことだった。過去、大学進学の時も会社を起こす時も、歌舞伎の世界を辞める時でさえ全く迷わなかった秋が。
一体全体、自分はどうなってしまっているのか。どうしてこうも自分のことなのに、自分の気持ちが分からないなんてことになっているのか。
自己を模索する時期は青年期で終わったはずなのに。
その秋の悩みというのは、芹沢みのりのことだった。
どうにも最近、彼女を視界に入れると気分が落ち着かない。
秋の好みにかすりもしていない。それなのに、みのりを見ているとなんだかムカムカしてくるのだ。これは胸焼けに似ている。
不思議なものだ。
好きだとも愛しいとも思わないのに、みのりと暮らしていると時々秋は壊れた行動をしてしまう。
これはなんだ?と自問自答しても答えは出ない。
タローに相談してもいいが、「設楽、いいねぇ」とサムズアップされて終わる気がする。あいつはそういうテキトーな奴だ。