私の愛しいポリアンナ
すすすっと、秋の足はみのりのそばに向かう。
みのりも黙ったまま近づいてくる秋に気付いたのか、視線をこちらに向けてくる。「何ですか?」と紡ごうとしたその唇。
無色のリップを塗っているのだろう唇。
気づいたら、秋はその唇に吸い寄せられていた。
あ、とは思った。
しかし「キスした」という感じはない。
どちらかというと、「唇がくっついたなぁ」と他人事のように思えた。
みのりもそうだったのだろう。キョトンとした顔の後、「設楽さんって、たまにロックなことしますよね」とだけ言った。
ロック。頭脳労働派の俺がそんなことしたか、と問えば「ほら、前、私の家に居ついてた男の人を殴った時とか」と返された。
確かにそんなこともあった。
その前には鹿川でタツヤを殴っていたし、案外自分は喧嘩早いのかもしれない。
そんなことを頭で考えながらも、秋の視線はみのりに釘付けだった。