私の愛しいポリアンナ
プレミアムフライデー。花金。世の中は金曜をそう形容する動きがある。
秋も秋とて仕事は嫌いではないが、学生時代の名残か金曜には浮かれてしまう。
人間やはり余暇は嬉しいものだ。
ギラついたネオンサイン。タバコと生臭い匂いの街。
御街の映画館の前で、藍色のコートを羽織ったみのりが立っていた。
その姿に浮上した気分もつかの間。
秋の視線はみのりの後ろのポスターに釘付けになる。
「どうしました?」
固まった秋の表情に不思議に思ったのだろう。みのりから声をかけてきた。
どうしたもこうしたもない。
ポスターには四つん這いで連なった男女の写真。でかでかと強調されている「ムカデ人間」の文字。
「まさか、これを見るつもりか?」
「嫌ですか?」
きょとんと聞き返してくるみのりに秋は言葉を詰まらせた。
嫌か嫌じゃないか聞かれれば、正直言って嫌だ。
だって、どう考えたって趣味のいい映画ではないだろう。ムカデ人間。B級映画の匂いがプンプンする。
しかしここで「嫌だ」と言ってしまえばみのりは最悪「じゃあ私1人で見てきますね」なんて言いそうだ。
この女はそういう淡白で薄情で気遣いがない部分がある。
なんで俺はみのりが好きなのだろう、と自分に問いたくなることを考えながら、秋は「嫌じゃない」とみのりに言っていた。
言ってしまえばみのりはふわりと笑い、「じゃあ整理番号取ってきましょうか」と軽い足取りで映画館に向かう。
秋はみのりに流されながら、「ホラー要素が少ない映画でありますように」と願うしかなかった。
狂気しかないサイエンティスト。
なんとも気持ち悪い〇〇〇〇描写。
最後のドタバタ劇。
秋が不安に思ったほどのホラー要素はなかった。
むしろ、話としては面白かった。
ただただ気持ち悪かったが。