私の愛しいポリアンナ
今日はみのりと海に行く約束をした日だった。
車のエンジンをかける。ブォン、と軽い音とともに振動が伝わる。
待ち合わせは駅のロータリー。
10分前に着きそうだ。みのりはもう来てるだろうか。
滑らかな運転でロータリーに進入した秋。
軽く辺りを見回すと、ベンチに腰掛けたみのりがいた。
その隣に、俯いたままのスーツを着た男。
浮気、みのりの新しい恋人、なんていう見方もできる絵面だったが、秋には到底そうは思えなかった。
むしろ、それまでの経験でなんとなく勘付いた。
あいつ、また厄介な男に関わってるな、と。
「あ、設楽さん。この人、この前言ってた鹿川の知り合いです」
秋が近づいたのに気付くと、みのりはそう隣の男を紹介してきた。
俯いていた男が顔を上げる。痩せこけた顔。目の下のクマ。健康とは言い難いようだった。
鹿川の知り合い。
どの知り合いだ?とまず秋は思った。
今までみのりと話した中で出てきた知り合いは何人もいる。
「とりあえず、車乗れば?」
「え、あ、僕はいいです」
「いいから。俺が気になる」
男は秋とみのりのデートだと悟って遠慮したが、秋は顎で乗るよう促した。
みのりも目を丸くしている。男とは秋が来るまで話すだけの予定だったのだろう。
おっかなびっくり乗り込んでくる二人。
後ろのドアがしっかり閉められたのを確認してから、秋が話しかけた。
「で、どの知り合いなんだ、その人は」
「え、どのって」
「あんたが今まで話した知り合いが何人いると思ってんだよ。スカトロ趣味の奴か?首締め趣味の奴か?あとは、あぁ、幼児性愛か麻薬中毒者か?」
秋の言葉にみのりは「そんなにたくさん話してましたっけ?」といった顔をした。
俺だってレパートリーの多さに驚いているんだ、と言いながら秋はアクセルを踏む。
とにかく、落ち着いて話せる場所に車を停めたかった。