私の愛しいポリアンナ
「まぁ、話したくないなら話さないでいいよ。個人的なことだしな」
他人に自分の性癖を話したがる人もそういないか、と秋はふと思い直しそう付け足した。
後部座席ではみのりと男が目配せをしあっている。
そうして、みのりが口ごもっている間に男が生気のない声で話し始めた。
「いえ、俺、俺は、あれです。子どもが、好きで」
「へぇ」
子どもが好きなのか、そうか。秋はそう繰り返す。
この男が言う子どもが好きは慈愛や友愛だけでなく性愛も含まれているのだろうことは秋にも容易に想像がついた。
警察に要注意人物として伝えておいたほうがいいだろうか、とまで考えを巡らせる。
自由恋愛は認められているが、だからといって大人にとって保護対象である子どもに欲情するような者は監視が必要ではないか?
変にプライバシーに配慮して、実際に子どもが被害に遭ってしまっては元も子もない。
難しい顔をしている秋に気づかないまま男は話を続ける。
「鹿川を知ってるんですよね。芹沢さんと知り合いということは」
「あぁ。何度か行ったよ」
「俺、あの、相談に乗ってもらってたんです。芹沢さんとは、それだけで」
「いや、分かるよ。それは。みのりは大人だし」
あんたの恋愛対象外だろ、とは言葉にしなかった。しかし男は言外の意を汲み取ったのか、ゆっくりと顔が下がっていく。
ついには俯いてしまった。
「分からない、んです。自分でもどうしてこうなっているのか。医者は、薬と考え方を変えることで治る病だと言うんです。生まれながらの幼児性愛者はいない、と」
「医者がいるのか」
「はい。昔、子どもに対する性暴力事件あって、それで、俺もいつかそうなるかもしれないと思って、それで、俺」
「あのさ、それは、あなた自身も、子供に対して欲情する人だって思っていいの?」
秋は言葉にしながら、俺は朝っぱらから何の会話をしているんだと思った。もっと爽やかな話題を繰り出しながらみのりと海に向かう予定が、なんでこんなペドフェリア男の話を聞くことになっているのだろう。
しかし秋もみのりと変わらずお人好しだったので、今この男を放っておくことはできなかった。
みのりの隣に座る男の話し方。
ぶつ切りで「自己」についての言葉をよく口にする。
鬱病の人の話し方に似ている。精神的に不安定なのは明らかだ。
みのりは男の隣で所在なさげに男を見つめている。