私の愛しいポリアンナ
「仕事、変えようと思ってて」
「転職?」
「はい」
男はぼんやりとした表情で話し始めた。
先ほどと打って変わって落ち着いた様子。
秋は律儀に相槌を打つ。
「工場の、生産ラインの管理をやってたんです。つまり、その、フード。ペットフードの。俺は、動物にはいわゆる一般的な愛着を持ててたから。安全だった。でも、前々から近くに保育園ができる計画があって、その話を聞いた時から、俺は転職しなきゃって考えてて」
「あなたの会社の別工場に移動っていうのは考えなかったのか?」
「俺の会社はそんなに大きくないです。工場は一つだし、営業所は駅前と隣の市の二つ」
営業なんて、いろんな人と会う街中での仕事なんてできない。
いろんな人と会うってことは、老若男女、子どもにも会うってことで、ダメなんだ。
男はそう、独り言のようにつぶやいた。
「俺から守らなきゃいけない。俺、俺は、子どもに、何をするんだろう。わからないけど、まともじゃないんだ」
秋は黙って聞いていた。
カウンセラーでもないし医者でもない俺に何を言えと?男ももう口を開かなかった。
車は静かに道を走る。
爽やかな色合いを見せる緑とは対照的に、車の中はただ静かだった。
みのりは、鹿川でこんなふうな話ばかり聞いていたのだろうか、と秋は思う。
彼女がたまに見せる鹿川の「犯罪者」たちを擁護するような言動。
こんな話ばかり聞いていたら共感して同情する気持ちもわからないでもないが、彼らは異常なのだ。
こちらの尺度で測って野放しにしていい存在ではないだろう。
後部座席の男だって、本人が言っていたように「まともじゃない」のだ。
子どもを見て興奮して、何をするのかわからない危険分子。