私の愛しいポリアンナ
ザザ、と波の音がする。男から目を離し、海を見つめた。
波打ち際でしゃがみこんでいるみのりの姿。
おもむろに彼女は立ち上がると、こちらに向かって歩いてきた。
その顔が心なしかニコニコしている。
握りこぶしを秋たちの方に突き出し、手のひらを開いた。
「キレイな石見つけたんです」
彼女の手のひらには青く丸くつるっとした石が確かにあった。
おおかた、青いガラス瓶の破片が波に削られ丸くなったのだろう。
「あぁそう」と秋は返す。それ以外どう返せばいいんだ。「キレイだね」というのもなんだかママゴトみたいで小っ恥ずかしかった。
「あげます」
みのりは秋の薄い反応も気にせず、その「キレイな石」をこちらの手に押し付ける。
いや、押し付けるという表現では語弊がある。自然に、彼女は渡してきた。
小学生が拾った松ぼっくりやどんぐりを友達に手渡すように、「見つけたからあげる」と。
ただ、秋がそのあまりの自然さに断れず受け取ってしまっただけだ。
そのまま男も青い石を渡されていた。
小学生のような贈り物を、男は目を細めて見つめていた。
渡したら満足したのかみのりはまた波打ち際に戻っていく。
指先のつるりとした感覚。手の中の石を持て余す。
あげると言われてもらったが、この石、どうしようか。
秋がぼんやりと手のひらの青い塊を見つめていると、隣で男がかすかに笑った気配がした。
「ああいうところが好きなんですか?」
下手くそな笑い方だった。
決して好意から聞いているわけではない。
むしろ逆だ。
「さぁな」
秋は軽く返した。俺はこの男に刺されるだろうか。
それとも、この男が生きる苦しみに耐えられなくなって自殺するのが先か。
同年代の女性を愛せる自分は恵まれているのだろうか。
もし、俺がこの男のように、幼児しか愛せなかったとしたら。俺も鹿川に逃げ込んでいただろうか。
子どもを避けて、自分を軽蔑しながら、生きてきたのだろうか。
わからないまま、秋は手の中の石の形を何度も確かめた。