私の愛しいポリアンナ


秋の恋愛の記事が書かれた雑誌は、大した影響はなかった。一般的には、だが。
会社でその話題を触れられることもなかったし、友人も特に何も言ってこなかった。
秋の周りは空気が読めるというか、距離感がうまい人が多いから知っていても触れてこなかっただけだろうが。
秋自身も雑誌を見つけた時は気になったが、それよりもその後に会った男のことが気になり、それどころではなかったのだ。
毎日それとなく30代男性の自殺ニュースはないかチェックしてしまう日々。
しかし今の日本では1日に100人が自殺すると言われている。
探せばいくらでも自殺のニュースは飛び込んできて、そのうちどこかにあの男が混ざっていてもおかしくない状況だった。
秋は早々に自殺者チェックを諦めた。
多分、本当にあの男がこの世を去ったとなれば、みのりが教えてくれるだろう。

そんなふうに秋が男の消息を追うのをやめた頃、実家から連絡が来たのだ。
突然だった。
『雑誌で撮られていたあの女は誰だ?』という声とともに、苛立った母親の声。
秋はげんなりしながらも、彼女が一般人であることを告げるとともに、銀行員の娘でもないし設楽家の借金を肩代わりしてくれるような相手でもないことを伝えた。
しかし電話だけでは納得しないのが秋の両親である。
一度家に帰ってきて説明をしろと求められた。
無視してもよかったが、これ以上の関係悪化は好ましくない。
どうしてこう俺の実家は厄介なのだろう、と秋は思う。
ひとつ救いがあるとすれば、一人で両親の相手をするのは大変だろう、という配慮から兄が来てくれることくらいだ。


「ご実家の事業はなんなの?」

「知らないよ」

出されたお茶には手をつけず、秋はソファに背をもたれめんどくさそうにため息をつく。
隣で兄は苦笑いだ。
両親は未だ、勝手に結婚した兄を許してはいないようで冷たい目で一瞥するだけだったが。
しかしそれでも家にはいさせるのだから、秋の両親は甘いのだ。
子どもから離れられないし、いつまでも自分たちを助けてくれる存在として期待している。そろそろ諦めればいいのに。
秋自身、かなり稼いでいるのだから半分くらいは肩代わりしてやっても痛くはないのだ。
けれど、手は貸さない。
秋が手を貸せば両親がさらに調子に乗るのが目に見えている。
俺は今の仕事が気に入ってるし、家を継ぐ気はない。見合いもしない。何度も話し合った記憶が蘇る。
秋はむっすりとした顔をして、親に告げる。


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