私の愛しいポリアンナ
「第一、付き合ってない」
「あら。今はお互いを知っていく段階なのかしら」
「いや。振られた」
その言葉に、両親のみならず兄まで目を丸くした。
わざわざ自分の傷を抉るような趣味はないので、秋は話は終わりとばかりに立ち上がる。
「打ち合わせの時間が近いし、俺もう行くから」
それだけ言って歩き出す。
呆然とした両親を置いて、兄も「俺も行くわ」と言って立ち上がる気配がする。
長い廊下を歩く。足音が近づいてきて、肩を叩かれた。
「全部吐けよ、秋」
「はぁ?」
どこか愉快そうな兄に顔をしかめる。
「打ち合わせは嘘だろ。奢るからさ、何か食べていこうぜ」
「やだ」
「近くにピザの美味い店があるんだよ」
馴れ馴れしく肩を組んできた兄に辟易する。
決して仲が良いわけではなく、「逃がさないぞ」ということなのだろう。
新婚は自分たちのことだけ考えてればいいものを。
ゲンナリした秋の顔を見て、兄はさらに笑みを深めた。
「しかし驚いたよ。お前、前の彼女とかなり相性良かったのに。あのまま結婚すると思ってたけど、まさか別れて別の女性とはな」
「色々あんだよ」
「いろいろ」
ふぅん、と兄の声。
自分だって今の嫁に一目惚れして、当時付き合ってた女性と別れてそのまま結婚したくせに。
秋の一族は勢いというか、直情的なところがあるのだろうか。