私の愛しいポリアンナ
「秋が振られるとはなぁ。なに、ものすごい美人とか?それとも一人が好きな女性?」
「美人では、ない。あいつは、なんというか、」
秋は口ごもる。
みのりは決して一人が好きというタイプではないだろう。
むしろ誰かに頼られることで自分の存在価値を見出すタイプというか。
「自分より、弱かったりダメだったりする奴が好きなタイプだ」
「なにそれ」
「世話してる自分が好きなんだよ」
これ以上ないほど的確な説明だと思ったが、兄はなんとも微妙な顔をしていた。
その女性のどこに惹かれた?と顔に書いてある。
秋は肩に置かれた兄の手を払いながら靴を履き、車のキーをポケットから出す。
「難しい女性みたいだな」
「難しいっていうか、趣味が悪いというか」
「秋は一人でも余裕で生きられそうだし、タイプじゃないんだろうなぁ」
ずけずけと無神経なことを言う兄に苛立ちが募る。
そんなの俺だって分かってる。
「うるさいな。今口説いてんだよ」
秋の言葉に兄はおかしくてたまらないといったふうに笑った。
「で、実際、手応えはどうなの?落ちる気配はあるのか?」
「言うか」
「いつになったらキスできるか、賭けてやろうか」
意地悪く言う兄。
キス。その言葉でふと秋の頭に浮かんだ一瞬の記憶。
同居していた時の、なんとなく触れ合った唇。