私の愛しいポリアンナ



「キスはした、なんとなく」

「は!?お前、まさか無理強いしたのか!?」

「いや、本当になんとなくの空気で。そもそも好きだとか伝える前のことだよ。自覚もなかったし」

兄はピシリと固まった。しかし秋は思い出に気を取られ、その様子には気づかなかった。

「そういや、伝える前にペッティングもしていたな」

ぼそりとこぼされた言葉があまりにも衝撃だったのか。
頭が痛いというように眉間に手を当て、兄はなんとか言葉を絞り出す。

「いや、お前、どんだけ武闘派なんだよ」

そういうのは、同意の上でするもんだ、と伝えられた。
年上のくせになんでそんな純情なんだと秋は呆れたが。
いい年なんだからその場限りの関係だって経験してるだろうに、真っ当なことを言うとは思わなかった。
「武闘派」と秋は繰り返す。
兄が言うような順序を踏んだ清いお付き合いなんてこっぱずかしくてやる気にはならないが、言われてみれば確かに、今までの秋は肉体言語に頼りすぎだったのかもしれない。
好きだと伝えたのも考えてみれば同居解消した時だけだ。
何度かデートらしきことをしているが、想いを伝えるような雰囲気ではなかった。
グロテスクな映画を見た後だったり、ペドフェリアの話を聞いた後だったり、みのりに好きだと言う気にはなれないのも仕方ない状況ではあったが。
これからは、会うたびに伝えるくらいでいいかもしれない。
不安そうな視線を向ける兄にも気付かず、秋はそう考えた。



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