私の愛しいポリアンナ
秋とみのりは何度か一緒に出かけた。
だいたいは仕事終わりのみのりを家に送るのが接点だったが、たまには水族館だったり、美術館だったり。
あとは、あまりよろしくはないが鹿川の工事現場にも行った。
あんなに腐ったものが押し込められていた場所だったのに、ゴミは片付けられ大きな建物の土台が作られ始めていた。
「もう面影もないですね」とみのりは笑っていた。
カジノが完成すれば、またこの崖の下はネオンの光がうるさい場所になる。
完成してからもう一度連れて来れば、「まぶしいところは鹿川と同じですね」と言いそうだなと秋は思った。
それからは祭りだったり、ビアガーデンだったり。
行くたびに「好きだ」と繰り返した。
「ありがとうございます」と繰り返された。
それでも秋の中で緩やかな変化が起きたように、みのりにも緩やかな変化は起きているようだった。
手をつないだ。
はじめは「設楽さんの手、乾燥してますね。ハンドクリーム要ります?」なんて言われた。
次につないだときは「へへ」と笑っていた。どういう感情だそれは。
次は祭りの人混みの中、はぐれないようにかみのりの方からつないできた。
なんだか高校生のときの青春の気持ちを思い出した。
ノスタルジックな感動。
あとは、ビアガーデンでソーセジを食べていたみのり。
ビールの泡が口についていた。
なんとなく気になって顔を近づけて。
そうしてなんとなく、唇をくっつけた。
「あ、まただ」と思ったがみのりはキョトンとしていて怒らなかった。
ビアガーデンだったから「酔っている」と言い訳もできたが、秋の唇は正直なもので「したかったからした」と白状していた。
みのりは「はぁ、そうですか」と要領をえない顔をしていた。
隣のテーブルの男だけの4人組が口笛を吹いてはやし立ててきていたが、みのりも秋もそれ以上は特に何も言わなかった。