私の愛しいポリアンナ


季節が巡って。
少し遠出をして、星を見に行った。
夏の大三角形と、サソリ座の心臓アンタレス。
宿でもとって一泊二日のプチ旅行にでもすればゆっくりできただろうが、そうはしなかった。
秋の仕事が詰まっていたし、付き合っていない男女が泊まりの旅行というのもよろしくない気がした。
車を飛ばして、空を見上げて、満足したらそのまま帰る。
ざっくばらんな計画でも、みのりは楽しそうだった。
車に寄りかかりながら上を見上げていた彼女。
「星空観察なんて小学生以来ですよ」と笑っていた。
秋はその時、上を見上げすぎて首が痛くなっていた。
星は見えたが想像していたよりも小さかった。
あんなに小さな光が、実際はとんでもないエネルギーで燃えていることの不思議をみのりは語っていた。
それから、今見ている光は何年か前の光だということも。
「知ってる。俺たちが普段見ている太陽も8分前の太陽の姿らしいな」と秋は返した。
秋が細かい時間も覚えていることにみのりは笑っていた。
笑ってくれたが、秋は自分が放った言葉が嫌味に聞こえなかったかが気になった。
こういう場合知らないふりでもして「へぇそうなんだ」と感心した方が相手は気分がいいだろうか。
らしくもなくそんなことを考えている自分も、全く気にしていないみのりも、なんだか腹立たしかった。
秋はみのりといるときの「自分らしくない」考えに陥ってしまう感覚が嫌いだった。
誰かのために自分らしさがねじ曲げられる。
いやだ。やな感覚。
胃はムカムカするのに、みのりは気分が良さそうだから文句も言えない。
「愛とは自己の喪失」と誰かが言っていた気がする。
本当にそうだ。
なんで俺はみのりの受けを気にして自己を捻じ曲げなければいけないのだ。
腹立たしい。
けれど、よくよく考えてみれば自分も昔、元カノに同じことをしてた記憶が蘇る。
俺が「白ニットが好き」とこぼした次のデートで、白ニットを着てきてくれた彼女。
気分が良くて愛しくて思いっきり抱きしめた過去の日。
そんなもんだろう。



< 167 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop