私の愛しいポリアンナ
誰かが俺のことを十分に愛してくれて、考えてくれる。
誰かの意識を独占できる。気分が良くなって当たり前だ。
秋は横を向き、星を見つめているみのりの横顔を見る。
無防備なその首筋を撫でた。
首。人間の急所。今回ばかりはみのりも驚いた顔をした。
「設楽さん」と呼びかけられる。
手はそのまま頬を撫でる。目尻。鼻筋。唇。
「好きだ」ともはやサザエさんのじゃんけん並みにおきまりのセリフとなったそれを言う。
みのりは目線を下げた。困惑の色が見える。いい気味だ。
耳をなぞる。ぞわぞわしているのか、眉が歪む。
秋はおもわず笑ってしまった。喉の奥から漏れるような笑い声。
目線が合う。瞳が揺れている。
そのまま、車の中で絡み合っていた。
初めてがカーセックスというのもまぁ、刺激的でいいだろう。
暗闇の中、お互いの存在を確かめ合うような、自分がなんだかわからなくなるような。
愛とは自己の喪失だ。
他者と混じり合って、自分というものの形が溶けていく。
なんでいきなりセックスをするに至ったか?察しろ。
なんかそんな雰囲気だっただろ。
とにかく、夜の帳に隠れて俺たちは階段を上がったのだ。
一度寝たということで、関係は進んだと言ってもいいだろう。
好ましい関係の進み方とは手放しに言えないだろうが、秋は一定の達成感は得られた。
ただ、暗闇の中でも思っていた懸念がある。
それは、「みのりの反応があまりにも淡白」ということだ。
実際、車の中で致した時も情事中だというのに彼女はどこかぼんやりとしていた。
これは秋の男の矜持に少しばかり傷をつけた。
嫌がるそぶりはなかったことがせめてもの救いだ。