私の愛しいポリアンナ
秋はあの夜から少しばかり日があいて、ようやくみのりの淡白な反応について思いをめぐらせ始めた。
考えられる要因はいくつかある。
例えば、みのりは不感なのかもしれない、とか。余計なお世話だろうが、その可能性もあり得ると秋は見ている。
ただ、これはみのりに聞かなければ本当のことはわからない。
もしくは、これはあまり考えたくないが秋が下手だった、とか。
今まで付き合った女性からは好感触をもらえていたが、それは実はお世辞だったのかもしれない。
そう考えると今までの自分はとんだ恥さらしだ。
もしくはもしくは、みのりは結構軽いタイプだった、とか。
尻軽、ビッチ、という下品な言葉が頭を巡る。
みのりと再会した時も、知らない男と寝てゴムが取れなくなっているときだった。
随分と間抜けな状況だったが、あのときを考えれば「みのりは好きでもない男とでも寝られる」というのはあり得る。
というか、みのりはそうなのだろう。
でなければあの状況で男に何も言わずに秋と一緒に病院へ行くなどしない。
寝た男への愛情や執着が少しでもあれば、男への怒りや「責任取ってよ!」の言葉くらい出るものだろう。
そもそも、と秋は思った。
みのりは、秋がぶつけるあらゆることに対して反応が淡白だった。
「好きだ」と伝えてもわかってないような反応。
キスをしたところで何をされているのか把握していない表情。
肌を重ねても目の前の秋のことではなく、先ほど見た星空のことを考えているような表情。
恋愛に対してのアンテナが鈍いのだろうか。
みのり自身、タツヤをずっと好きだったと思って生きていたが、失ってからは「愛ではなく必要とされたかった」と結論付けていた。
タツヤと結婚したいとは思わなかった、とも言っていた。恋愛偏差値が低いのも頷ける。
もしかしたら、性的なことをしたいと思わないタイプなのかもしれない。
なんていうんだっけ、聞いたことがある。
ノンセクシャルだったかアセクシャルだったか。
秋はそこまで考えてから、自分の気持ちが沈んでいることに気がついた。
仮に、みのりが「そう」だったとしたら。
他者に恋愛感情を抱かないタイプだったら。
それでもいいと、そばにいたいと俺は伝えるだろうか。
それとも、報われない恋に見切りをつけて別の恋を探すだろうか。
机の上に所在なさげに置かれている青い石を見る。
みのりが海で気まぐれによこした石。
つるりとした丸み。平気な顔したそれが、なんだか憎らしい。
秋は静かに、長い息を吐いた。