私の愛しいポリアンナ
幸運を。
秋が病院に電話したのは気まぐれだった。
病院というより矯正施設という方が誤解がないが、矯正施設と言うには矯正をほぼしていない施設だ。
薬物中毒者の隔離施設と言った方が適切であろう。
そう、秋はタツヤの容態を聞くために病院もとい施設に電話したのである。
タツヤのことを気にかけたのではない。
みのりとこれから一緒にいるためには、どこかでみのりのタツヤへの気持ちにケリをつけなければいけないと思ったからである。
以前の秋は、みのりとタツヤを離すことが良いことだと信じていた。
あのままだったらみのりはタツヤに引きずられて、社会の底辺へ落ちてしまう。
そう危惧して、彼女からタツヤを奪った。
鹿川を潰し、タツヤの犯罪を通報するという形で。
自分は間違ったことはやっていないとは自信を持って言える。
また、みのりにとってもいい変化だったとは思う。
当初のみのりは落ち込んでいた。それは確かだ。
しかし秋の見解として、「みのりのタツヤへの想いは愛ではない」と思っていたので最悪なことにはならないだろうと踏んでいた。
タツヤをポリアンナとしてしか見れなかったみのりが本当に愛していたとは思えなかったからである。
そうして一ヶ月もしないほど経った頃。
ホテルの前で、みのりと会ったのだ。
秋の目論見通り、みのりはタツヤのことはあまり引きずっていないように見えた。
自分はタツヤが好きなのではなくて、誰かに頼られたかったのだと言っていた彼女。
全ては終わったかのように見えた。見えた、だけだったが。
タツヤとの思い出が、彼女の中で大切な部分にしまってあるのは確かだろう。
10年近くも見つめ続けた男だ。
愛じゃなかったとしても、情は残っているはずだ。
みのりは見ないフリをして前を向いている。
かさぶたはいつかは剥がれてみのりの心を揺さぶるとも知らずに。
秋は今、そのかさぶたを人為的に剥がそうとしていた。