私の愛しいポリアンナ
タツヤの話から予想するに、彼はみのりに対して本心は口にしたことがないのだろう。
本心、つまり今、秋に漏らした独り言のようなものは。
「タツヤの好きにしていい、タツヤが笑っていればいい」という態度でいたみのりを、タツヤはずっと不思議に思い、自身を隠してきた。
「みのりちゃんは何をするつもりなのだろう」と言っていたタツヤ。
タツヤを殴るでもなく、叱るでもなく、遊ぶでもなく、ただ見つめるだけだったみのりは、タツヤから見て確かに分からない人物だったのだろう。
みのりが感じていた母性本能や庇護欲は、タツヤには理解できないもので、彼に混乱をもたらした。
混乱したタツヤは笑うことを選択し、みのりはそれで満足していた。
その結果が今の状況だ。
顔を上げ、タツヤの顔を見る。
白濁した目は何も見えないだろうが、秋が自分を見つめていることは感じたのだろう。
タツヤも秋の方を向いた。
「今度、ここにみのりを連れてくる。いいな?」
「みのりちゃんを?」
拒否は認めないといった姿勢の秋に、タツヤは眉をしかめた。
拒絶の意思がありありと感じられる。
そんなに嫌か。
「みのりちゃん、多分怒らないよ。『タツヤ、大変だったね』って言って、お菓子とかくれると思う」
多分怒らないよ。
タツヤの言葉を秋は一拍考えた。
「別に、あんたを叱りたくてみのりを呼ぶわけじゃない。目的はないんだ。ただ、みのりはあんたに会いたがってたから」
「俺はあんまり会いたくない」
「どうしてもか?」
「どうしてもじゃないよ。あんまりだよ。みのりちゃんは、あんまり俺に興味ないし」
「まぁ、それは、確かにそうかもしれないが」
理想であるポリアンナのタツヤは好きだっただろうが、本当のタツヤ自身は見ようとしなかった彼女を考える。
タツヤも同じようなことを考えているのか、「みのりちゃんは、」と話し出した。
「一回、俺が避妊しないで女の子とやって、堕ろさせた時は怒ったんだ。みのりちゃんも怒れたんだって思って。で、俺はこの場所から逃げたかったし、なんならもうどっかに逃げ出す途中で、車にでも轢かれて死にたかったんだってことを説明しようとしたんだ。もう嫌だったんだ。知らない男の人や女の人から触られるのも、クスリ飲まされるのも、居なくなるばあちゃんを探しに行くのも」
だから、お腹の中で死んだ赤ちゃんのこと、いいなぁって思ってた。
こんなにめんどくさくて息苦しくて、誰も本当のことを言わない場所に生まれてこなくてよかったねって、俺は思ってた。
俺も君みたいになりたかった。
「でも、『俺もお腹の中で殺されたかった』って俺が言った瞬間のみのりちゃん、すごい顔してた。信じられないって顔。ひどかった。やっぱり、俺はみのりちゃんの前では笑ってた方がいいんだなって思った」
あぁ、一度みのりからそんな話を聞いたな、と秋は思った。
そして、タツヤが自殺未遂をしたという話を思い出す。