私の愛しいポリアンナ
「今も死にたいのか?」
「うん、別に、どうしてもじゃないけど。でももう目も見えないし。俺の胃はもうボロボロだって先生は言ってた。もう長くないかもって。だから、死ぬ時って、苦しいんだろうなって思ったら、ここから落ちて死んだ方がまだマシだろうなって思ってさ」
「死ぬな」
秋の言葉にタツヤは不思議そうな顔をした。
なんで?と顔に書いてある。
一、二度会っただけの秋が止めるのが不思議だったのだろう。
目は口ほどにものを言うと言うが、白濁した目でも表情はわかるものだ。
ぐい、と体をタツヤに近づける。
「死ぬな。あんたが死んだら、みのりが泣く」
タツヤが分かるように、ゆっくり、大きな声でそう言った。
パチパチと、タツヤがまばたきする。
瞼の下の白濁した目は何も映していない。
けれどそこに、確かに諦めと悲しさの色があった。
ふふっとタツヤが笑みをこぼす。
ポリアンナらしくない、疲れ切った笑い方だった。
「みのりちゃん、泣くかなぁ」
寂しそうな声。
話で聞いていたタツヤは、いつも笑っていた。
甘えた声で、ニコニコした笑顔で、だらしなくても人に囲まれている人物だと思っていた。
おせっかいなみのりや、頭の悪いジュンナちゃん。
ヒモであるタツヤの面倒を見てくれる女性、鹿川の住人。
多くの人がタツヤの周りにいたのだろう。
けれど、本当のところ、タツヤは孤独だったのではないか、と秋は思った。
誰にも言えなかったであろう本心。
友人と遊ぶ時間。
抱きしめてくれる存在。
本当のところは秋にはわからない。
タツヤの態度から想像するしかない孤独は、それでもしっかりと秋の心をつかんで離さなかった。
せめて、最後までみのりはあんたのことを気にかけてたんだ、ということを知ってほしかった。