私の愛しいポリアンナ
「最近、できたばかりのホテルの清掃係です。採用されました。そこは、子どもはお断りのラグジュアリーホテルなので、俺も働けると思って」
お人好しな秋が用意したデパ地下の惣菜と匂いのきついチーズを目の前にしながら、男はそう言った。
結局、秋の提案通りになった。
男とみのりは手土産とともに秋の部屋にやってきて、一緒に夕飯でもという運びだ。
秋は玄関先で迎えた男の様子を思い出す。
相変わらず視線は揺らめいて、不安定な印象を受ける男だった。
スムーズに2人を席に付かせ、秋は準備のために離れる。
2人の会話を見たかったのもある。
みのりは機嫌が良さそうな様子でチーズをつまんでおり、「決まって良かったですね」とだけ言っていた。
確かに、この男の新しい職場が決まったことは喜ばしいことだ。
秋は実家から送られてきた静丘の高級茶葉を急須に入れながら、二人の様子を盗み見ていた。
ときたま、気になったことを質問したりもした。
「転職理由はなんて言ったんだ?」
「初めは、実家の両親の介護のため、実家近くで働ける職に就く必要があったと言いました。でも、ホテルの代表は、すぐに俺の嘘を見抜きましたけど」
「へぇ」
「すごい人でしたよ。その後、俺が、患っている鬱病の話をしました。それは嘘じゃなかった。でも、重要な真実ではないだろうってことを言われました」
「そりゃあ、あんたの性癖を言うわけにもいかないだろうからなぁ」