私の愛しいポリアンナ
秋自身は大学時代から起業の準備を進めて卒業とともに会社を本格的に運営しだしたので、就職活動はしなかった。
しかし就職活動を経験した友人から話を聞いたことは何度もある。
「面接なんて、どれだけ嘘をつけて、相手に気に入られるかだ」と友人は語っていた。
就活なんてそんなもんなんだろうな、と秋は思ったが。
そりゃあありのままの自分を受け入れてくれるのが理想論だろうが、実際それだけでうまくいくとは限らない。
ビジネスの世界で本音と建前、駆け引きが発生するのだから、面接での猫かぶりなんて当たり前だろう。
秋はそう思っていたのだが、目の前で話す男は猫を被りきれなかったようだ。
「俺は、諦めたんです。この人には何でか分からないけど嘘がバレてしまう。どのみち、ここまで嘘を見抜かれた俺は断られるだろうって、そう、思って。だから、言ってしまったんです。俺、俺の、抱えている問題を。転職したい理由も」
「言ったのか」
秋は目を見開いて繰り返すと、男はコクリと頷いた。
みのりはマリネを頬張りながら男の顔を見ていた。
「あの人は、しばらく黙ってました。俺は落ちたと思って、挨拶だけして帰った。でも、その後、うちで働かないか?って連絡が来て、意味がわからなかった」
「理由は聞いたのか?」
「聞きました。色々と言ってました。一年は様子を見る、とも。でもその後、俺の問題と、今でも戦っていることについて話してきたんだ。俺に前科が無いことと、自分で律しようとしていることから、信用してみたいって。俺は危ないんだって伝えた。でも、そんなの、人間なんてみんな危うくて危ないものだって笑ってた」
不思議な人だった、と男は言った。
その後も色々と質問をしてみて分かったが、男に内定を出したそのホテルでは統合失調症の人や鬱病の人などを採用しているらしい。
元々、そういう人を放っておけない人が代表をやっているのだろう。