私の愛しいポリアンナ
秋は目の前の男や、先日会ったタツヤのことを思った。
秋の想像もつかない場所で生き、想像もつかない苦しみを抱えたまま生きていた人たち。
彼らはゴミ溜めの泥沼のような鹿川で、身を寄せ合って生きていた。
犯罪と不正が当たり前の場所で。
鹿川はこの国にとっての汚点であり、最後のスラム街であり、彼らの居場所だったのだ。
秋はお茶を淹れながら、男の目を見ずに言った。
「鹿川がなくなって悲しいか?」
男は数秒、「えぇっと、」と訳が分からないような声を出していた。
おそらく、彼は秋が鹿川カジノ計画に出資していることを知っているのだろう。
躊躇うような間。
秋は相手の反応を待たずに続けた。
「あそこは、あんたの居場所だったんだろ?俺たちには泥沼にしか見えなかったが」
「居場所」
男は少し考えていた。
かつて鹿川で過ごした日々のことを思い出しているのか。
「そうですね、俺の、居場所の一つでした。でも、それだけです。無くなって悲しいと、最初は思ったけど、もう平気なんです」
そう言って、秋が淹れたお茶を一口飲んだ。
猫舌なのか一口目に少し時間がかかったが、ゆっくりと彼は味わっていた。
みのりが再びチーズをつまむ。
秋もなんだかそのチーズがとても美味しそうに見えてきて、一つ摘んだ。
「それに、俺みたいな。俺みたいなおかしい人にとって、ずっとずっと前から、世界はどうしようもなく不公平で不平等でした。だから、今更、居場所がなくなったことなんてどうでもいいんです。社会にも周りにも居場所がないのなんか当たり前で、でも、ここで生きていくしかないんですから」
死にたくなります。
今でも死にたくなるんです。俺が小さい子を傷つける前に、いなくなった方がいいんじゃないかって、何度も考えます。
でも、いざ縄を前にすると怖くて、俺は死ねなかった。首を吊る勇気なんかなかった。
男は湯呑の中のお茶を飲みきると、一気にそうまくし立てた。