私の愛しいポリアンナ
話を聞いてもらうだけで、結構悩みって吹っ飛ぶんです。
そう、彼女は言った。
吹っ飛ぶわけないだろ、幼児性愛だぞ。一生、あの男につきまとう悩みだ。
秋はそう思ったが、口をつぐんだ。
自分はあの男に共感しすぎていると思ったからだ。
男の人生であって秋の人生ではない。他人のことで感情を振り回されるのは疲れるだけだ。
黙った秋。目の前で、ナスを口に含みながらみのりも何か考えている顔だった。
「ここ数年、彼の話を聞いてたんですよ。私」
「かなり長い付き合いだったんだな」
「はい。私も驚いています。ずっと同じ悩みをよくそんなに聞き続けていられたな、と」
それから、とみのりは続けた。
「タツヤの話も、ちゃんと聞けばよかったって、今、後悔しています」
手が止まる。
掴み損ねたチーズがぼとりと皿の上に落ちる。
みのりがナスをようやく口にする。
タツヤ。タツヤか、と声が出た。
「一度だけ、タツヤは私に本当の部分を見せてくれたのに、私はそれを信じなかった。見たくなくて目をそらした」
『俺もお腹の中で殺されたかった』
『みのりちゃんは何をするつもりなんだろう、ってずっと思ってた』
『みのりちゃん、泣くかなぁ』
2日前のタツヤのことが秋の頭を巡る。
それから、目の前でもぐもぐと食べ続けるみのりのことを。
ようやくだ、と思った。
ようやく、みのりがタツヤに会いに行く勇気を出したのだと。