私の愛しいポリアンナ





気温25℃の過ごしやすい土曜の午後。
テレビでは料理番組が垂れ流され、テーブルの上には食べかけの料理が残されている。
28歳の秋が手を取った女性は、お世辞にも美人とは言えない相手。
1年前、仕事に邁進していた秋。
その頃には想像もしていなかった未来が、今ここに広がっていた。

国の観光誘致政策のカジノに一枚噛んだこと。
薬物中毒の男に会いに行ったこと。
幼児性愛の男の話を聞いたこと。
今まで気にも留めなかったタイプの女性に、恋に落ちたこと。

思い描いた「理想の生活」とはかけ離れた未来だ。
それでも、悪くないと秋は思った。
どうせ一度の人生だ。
予想通りじゃつまらない。
心地よい人間関係だけじゃ俺の視界は狭いままだ。
悪くない。
刺激的で、悲しくて、目を閉じたくなるような現実にも会う。
それでも、秋にできることは目を見開くことだけだろう。
誰だってそうだ。みのりだって。目を見開いて現実を見つめることは勇気がいるが、幻想に逃げたって何にもならない。

みのりが愛したポリアンナは彼女が生み出した幻想だったが、今それが消えようとしている。
不公平で不平等で思い通りにならない現実を、みのりは目を見開いて受け止めようとしている。

「設楽さん」

顔を上げたみのり。
目が合う。
黒い瞳が秋を見つめる。


1人で見る甘く優しい幻想は終わった。

これからは、辛く悲しいことも覚悟の上の現実を、2人で見つめていくのだ。











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