私の愛しいポリアンナ
「へぇ、歌舞伎役者の家に生まれたのに、大学在学中にインターネット広告会社を設立、設立から上場まで約二年、って。なんで役者にならなかったんだろ」
「設楽秋さんかぁ。設楽って、女優の設楽優姫さんの息子ってこと?」
「うん、プロフィールにもそう書いてある」
「うわぁ、なんかすごい人じゃん」
「イケメン社長特集って、あはは、設楽さん以外が霞んじゃってるじゃんこの記事」
「その甘いマスクからは『王子様』と呼ばれてるって、この記事ぜったい女が書いたでしょー!」
きゃあきゃあ騒ぐ同僚や後輩。
もちろん、みのりは昨日バーでその姿を見た時点で彼が設楽秋だということはわかっていた。
一応経済ニュースはできるだけ目を通してる。
ただ、タツヤ好みの女の子は活字なんか読まない設定だ。
昨日だってちゃんとその設定で動いていた。
彼が経営者なんて知らない、ただ「芸能関係の人かな?」しか思えない子に成りきっていたつもりだった。
そんなみのりの演技も彼には見抜かれていたようだ。
『俺のこと知ってただろ?』
という自意識過剰も甚だしいメールが来たのはバーを出てすぐだった。
普段から、タツヤ好みのホワホワしてる子が考えていることを考えるようにしている。
それでも成りきれないのは、何がいけないのだろうか。
みのりは机に肘をつき考える。
そんな私の様子を「恋わずらいねぇ」なんて囁く周囲。
恋。
恋なら、中学生の時から、ずっと引きずっているのだ。
自覚した瞬間にタツヤに振られたが、それでも諦めきれない、重症。
タツヤがポリアンナ症候群なら、私はなんだろう。
かしましい周囲の中で、みのりはじっと考えていた。