私の愛しいポリアンナ
しばらく、二人で料理を食べる時間が続く。
みのりはみのりでお腹が空いていたので食べるのに集中していた。
秋は半分ほど食べたら満足したのか、そこから手が動いていない。
店内にはしっとりしたピアノの音が響いている。
「タツヤは、何事にもいい部分を見つけようとするんですよ。あんまり深く考えないっていうか」
「まぁ、深く考える奴が高校生の女の子を妊娠させるわけないもんな」
秋が目を細めてつぶやく。
「中学生の時、タツヤと一緒に見てたテレビ番組で『舞妓さん特集』やってたんですよ」
「へぇ」
「舞妓さんって、中学卒業したらすぐ修行に入るそうで。舞妓で居られるのは20歳までだそうです。それからは、芸で身を立てる芸妓になるか、その業界からは卒業するか選ばなきゃいけないらしくて」
「知ってる。あそこは芸妓になってからはほとんど自己負担だから結構シビアな世界なんだよな」
「知ってたんですか」
「俺がどこの家の出身だったと思ってんだよ」
「歌舞伎でしょう。そこにつながりがあるのが意外で」
「伝統芸能の世界についてはそれなりに耳にする機会があってさ」
ふぅん、とみのりは呟く。
みのりの父は航海士、母は専業主婦という、まぁ普通の家庭だった。
だからか、世襲制の文化を担う家は大変だなぁ、くらいにしか思わない。