私の愛しいポリアンナ








「あの頃ちょうど、メキシコの麻薬戦争が過激化してて大騒ぎだったのに、なんで日本では一切報道しないのかって、私すっごいイライラしてたんですよ」

「麻薬戦争?」


普段の生活にあまりにも関わりのない単語に、みのりは目をみはる。
ミヨちゃんは大きな目を吊り上げて熱弁してくる。


「そうです!子供の犠牲者が多くて、ジャーナリストもどんどん殺されちゃってぇ、報道するのも命がけだったっていう」

「そんなことがあったんだぁ・・・」

「あったんですよ!」


ミヨちゃんとのあまりの熱の違いに、みのりは「はは」と乾いた笑いをこぼすしかなかった。

そういえば、彼女は今の職に就けなかったら報道カメラマンになる予定だったということを思い出した。
デザイン職か報道カメラマンって、どんな二択だ。
いや、意外と関係性はあるのか?

大学では写真を主に専攻していたミヨちゃんはピュリッツァー賞なんかにも詳しかったはずだ。
それ関係の本を読んでるとこを見たこともあったな。

みのりがツラツラとミヨちゃんについて考えていると、本人がじとっとした目で見つめてきた。


「みのりさんって、なんか、無気力ですよね。省エネっていうか」

「え、省エネ」

「生きるのに必要最低限の力しか使ってないっていうか」


はぁー、と大きなため息をつくミヨちゃん。
「ココア買ってきまーす」と力なく言い、席を立つ。

カツカツ、とヒールを鳴らし歩いていく姿勢のいい後ろ姿を、みのりは呆然と見送るしかなかった。
先輩である私にあんなこと言うなんて、ミヨちゃんって強いなぁ、と感心するしかない。






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