私の愛しいポリアンナ





結構近くに住んでるんだな、と秋はこぼす。

近くといえば近くだ。
みのりが働く蛍豆台や、秋の実家がある舟萩寺地区。
いわゆるオフィス街や高級住宅街と、タツヤが今いる鹿川は、地図上では近い。

けれどその地域の間は大きな差がある。
二つの地域は、大きな崖に隔てられているのだ。
鹿川は、崖の下にある。
崖の上は高所得者が住む地区。
崖の下、鹿川などは歓楽街や、日雇い労働者が集う地区。

みのりとタツヤは、今では崖という物理的な障害であまり会う機会はない。

みのりから何度も連絡をとって、ようやくタツヤが顔を見せてくれるくらいだ。


「あんた、鹿川まで降りてくの?タツヤに会いに?」

「はい。タツヤ、車持ってないんでこっちまで来れませんし」

「ふぅん。俺、崖の下には行ったことないなぁ」

「でしょうね」


多分、秋が見たこともないような人たちがうじゃうじゃいますよ、とみのりは心の中で呟いた。

パテックフィリップをつけている秋なんか行ったら、失禁するんじゃないかというようなことが多々ある。
鹿川は、ちょっと神経が図太いくらいじゃなきゃ生きていけない世界だ。







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