私の愛しいポリアンナ
歌舞伎の家元に生まれた秋。
小さい頃から家を継ぐために稽古をつけられてきたのだろう。
大学時代に起業した秋。
今では、若手社長で特集されるほどの上々ぶり。
恵まれた美貌。
蝶よ花よと育てられてきたのが目に見える。秋は男だが。
500万の時計をつけ、みのりのような女と話をする金と時間の余裕もある。
設楽秋が、今までの人生でもこれからの人生でも、鹿川に目を向ける可能性はこれっぽっちもなかった。
みのりが鹿川の話をしたのは、ちょっとした優越感だった。
私はあなたの知らない世界を知ってるのよ、という感じの。
もしくは、あなたはこんな世界知らないでしょ、なんて。
そんな、秋より知っているという事実が、みのりのちんけな虚栄心を満たしていた。
「ちなみに、酒にクスリを入れられたら、気持ち悪いなんて感じる間もなく意識が吹っ飛ぶんですよ」
そんな、言う必要のないことまでみのりは口走っていた。