私の愛しいポリアンナ
そしてやはり金曜日、設楽秋は来た。
『行きたくない』と子供じみたメールもなんども送ったのに、みのりの目の前には白のビートル。
思いっきり顔をしかめても、運転席の秋は「早く乗れ」と手で合図するだけ。
帰る前のミヨちゃんのニヤニヤ顔を思い出す。
「設楽さん来てますよ」なんて言われて、「夢であってほしい」と思わず本音が漏れそうになった。
ミヨちゃんにも悪気はない。
ただ、先輩の恋を面白がってるだけだろう。
なんだか十分悪い気もしてきた。
もう抵抗しても無駄だと悟り、みのりは渋々助手席に乗り込む。
「ちょっとは喜ぶ振りしろよ」
「ラングラーだったら大喜びだったんですけどね」
「あの尖ったデザインかっこいいよな!」
「冗談ですってば」
今までで初めて見るくらいの良い笑顔を見せられ、みのりのテンションはさらに下がった。
なんで男の人ってこんなにクルマが好きなんだろう。
「で、なんで鹿川に行こうと思ったんですか?」
「そりゃあ、先週のあんたがなんか腹立たしかったからさ」
あっさりと返され、みのりは頭を抱える。
うわぁ。
この人、人が自分より博識なのが我慢ならないタイプかぁ。
先週の自分が恨めしい。
小さな優越感で調子に乗って、鹿川のことなんかベラベラ話さなければよかった。