私の愛しいポリアンナ
「その頃、私ドキュメンタリー番組に凝ってて、『沈黙の叫び』をみたんですよ」
「なんだそれ」
「中絶手術の映像です」
秋のハンカチで口元を押さえる。
ラベンダーか何か。
柔軟剤であろういい匂いがした。
「怖かったですよ。中絶手術って、お腹の中に棒を入れて、赤ちゃんの脳みそを潰して、体を吸い出すんですよ。外に」
なんでその映像に行き着いたのか。
ネットサーフィン中にたまたま見つけたその映像に、みのりは気持ち悪さと居心地の悪さを感じた。
「やりきれないですよ。本当に。赤ちゃんの腕や足がもがれていく、中絶手術のリアルタイム映像で」
もうすでに死んでいるとわかっていても、小さな体がバラバラに引きちぎられていくのを最後まで見ることはできなかった。
怖かったのだ。
育てられないなら産まないほうがいい。
中絶だって、一つの立派な選択肢だ。
誰が悪いもない。
コンドームの避妊率だって100%ではないのだから、しょうがないこともある。
「お腹の中で死んでいくって実感がなかったんですよ。でもあの映像を見たら、生きてる子を殺してるんだなって、やけにリアルに感じて」
だから、タツヤとその彼女が子どもを作って中絶したという話を聞いて、みのりは今までにないくらい怒ったのだ。
タツヤは避妊をしなかった。
と言うよりも、子どもを作って彼女と一緒にどこかに逃げ出すつもりらしかった。
タツヤの計画は失敗したが。
彼女は中絶し、二度と顔を見せるなと彼女の親に殴られたらしい。