私の愛しいポリアンナ
「逃げたかったら、普通に逃げればよかったじゃん!子ども作る必要なんてなかったでしょ!」
彼女の父親にボコボコに殴られたタツヤの元に、みのりは鼻息荒く突撃した。
それでもタツヤはパンパンの顔をしながらも、いつものように笑っていた。
「したかったんだからいいじゃん」と。
いつもだったらタツヤだからしょうがないか、で流すみのりも、今回ばかりは流せなかった。
「人を一人殺したんだよ!タツヤわかってる!?赤ちゃんは、お腹の中で腕と足をもがれて、頭潰されて死んだんだよ!」
みのりの怒鳴り声も、タツヤに響いた感触はなかった。
その後もみのりはたくさんタツヤを罵倒した。
人殺しだよ、彼女もいっぱい傷つけたんだよ、と。
それだけ怒鳴りながらも、みのりはどこかで諦めていた。
タツヤには言ってもわからない。
こんな頭ゆるゆるのポリアンナ男に、人の痛みなんか分かるはずがないと。
きっと、いつもみたいに「みのりちゃん怒りすぎだよ」って言いながら笑っているのだと思っていた。
けれど、ふと気づいて目線を下げた時。
青く変色した皮膚の下。
タツヤは無表情でみのりを見つめていた。
情けなく笑った顔ばかり見慣れていたみのりは、初めて見るタツヤの空虚な表情に動揺した。
ぼんやりと、みのりを見上げていたタツヤはしばらく黙っていた。
部屋の外から6時を告げる音楽が鳴った頃。
タツヤはぽつりと呟いたのだ。
「俺もお腹の中で殺されたかった」
あの時から、タツヤはみのりを避け始めた。
みのりもまた、タツヤとどう接していいのかわからないままだった。