私の愛しいポリアンナ
それからしばらくしてタツヤは高校を中退した。
「タツヤはそれまで、どんなことがあっても笑ってたんです。万引きの濡れ衣を着せられた時も、おばあちゃんが川で溺れ死んだ時も」
どんな時も、「しょうがないよ、どうにかなるって」とふにゃふにゃ笑っていたタツヤ。
この人は、どんな状況でも笑って生きていけるんだな。
ある意味幸せかも、とみのりはタツヤを見ていた。
だからこそ、無表情に「殺されたかった」とのたまったタツヤに大きな衝撃を受けたのだ。
「知りたかった」
ぽつりと漏らした言葉は小さく、聞き取れなかった秋がみのりの顔を見る。
すでに涙は止まっていた。
「いつも笑ってたタツヤが、本当は何を考えてたのか、知りたかった。けど、聞けなかったんです」
聞いてしまって、これ以上タツヤとの関係が壊れるのが嫌だったのか。
それとも、タツヤの胸の深い部分を覗いて受け入れる勇気がなかったのか。
どちらもかもしれない。
みのりの告白を、秋はフゥンと受け流した。
「あぁ、そう」以外の言葉がない。
そりゃあ、タツヤも人間なんだから色々考えてるだろうよ、とは言わなかったが。
みのりは「タツヤはいつも笑っている」と言ったが、それはそう見せていただけだろう。
人間は一面的ではない。
いろんな感情、いろんな面を持っていて、複雑なのだ。
むしろ表面しか受け取らず、それを信じ続けていたみのりの方が秋にとっては信じがたい存在だった。