私の愛しいポリアンナ
「考えたこともなかったです」
間抜けな声でみのりがそう言うと、呆れたように秋が笑った。
「じゃあ何考えてんだよ、タツヤのことで」
「笑った顔ですよ」
頭ゆるゆるでも、貞操観念ガバガバでも、みのりはタツヤが笑っていればそれでよかった。
ポリアンナでも、責任感皆無でも。
どんな状況でも笑っているタツヤが好きだったのかもしれない。
だから、「殺されたかった」の言葉が受け入れられなかったのかもしれない。
ぼんやりと潮風にあたりながら、みのりは遠くを見つめていた。
どこか悟ったようなみのりの顔を、秋はただじっと眺める。
「鹿川は、3年後には無くなる予定だ」
「崖を埋めるんですか?」
「いや。崖の下一帯をカジノにする計画があるんだ」
「あぁ、なるほど」
麻薬、賭博、人身売買で溢れている無法地帯の今の鹿川よりは、ずっとマシな街になるだろう。
日本最後のスラム街も、3年後には無くなる。
いいことじゃないか。
みのりの言葉は、声にはならず、口の中で消えた。