私の愛しいポリアンナ
そのあとの会議は順調だった。
お互いに無駄な会話は一切なく、ひたすら次のビジネスについての話に終始した。
ビジネスでは冗談も交えた方がうまく行きやすい、というのはわかっていたが、秋はそんな気分ではなかった。
なぜか、頭を占めるのは鹿川のことだった。
ギラギラしたネオンの眩しさ。
歯が溶けた住人。
くしゃくしゃの髪のタツヤ。
道端に転がる犬の死体。
同じ国の、ほんの数キロ離れた地域とは思えなかった光景。
会議が終わるや否や、秋はすぐにビートルを動かしていた。
鹿川に行ってどうするのかは、何も考えていなかった。
ただ、何となくもう一度あの場所に行きたかった。
「設楽さまですね、ええと、本日は現地視察の日ではないのですが・・・」
「今日は個人的に来たんだ。知り合いの案内人が中にいる」
「そうですか。ですが、設楽さまの身に万一のことがあると事なので、本日は申し訳ありませんが帰っていただいても・・・」
「上に話はつけてある。それに、案内人がいると言っただろう?鹿川では知り合いさえいれば身の安全は保障される」
鹿川に入るところで警察と少しだけ揉めたが、結局秋は鹿川に入れた。
ああは言ったが、案内人などいない。
前にみのりと来た時のことを鹿川の住人が覚えていてくれればいいのだが。