私の愛しいポリアンナ
念のためにスタンガンは用意しておいた。
崖の下、鹿川に続く道を走りながら、秋はゆっくり息を吐いた。
こんな危険を冒してまで、俺は何をやっているのか。
そう考えてももう遅い。
二度目の鹿川の繁華街に向かって、ビートルは確かに走り続けていた。
ようやく着いたぼったくりの駐車場では、老人は秋のことを覚えていた。
彼は料金をまともな値段にしてくれた。
その上、「北のほうは抗争が比較的激しいから近寄らないほうがいい」とまで忠告してくれた。
本当に、知り合いがいるというだけで鹿川はだいぶ過ごしやすいのだな。
秋は老人に礼を言いながらそう思った。
少し歩けば相変わらずギラギラした明かりが見えてくる。
あの明かりはどんな時でも点いているのだな、と少し笑えた。
その時、秋の足が止まる。
繁華街の入り口の少し手前。
誰かがいる。
いや、正確には誰かが人を抱えている。
普通に考えれば、介抱しているのだろう。
酒の飲み過ぎか、クスリのやりすぎで意識を飛ばした人を抱えていると予想できた。
だが、なんだかそれとは別の、嫌な予感が秋の胸を駆け巡る。
早足になる。
繁華街の明かりを背に受けた人物のシルエットが、はっきりしてきた。