私の愛しいポリアンナ
「会員制のバーって、ヤクザとか入れないための建前だって聞いたことあるけど、ここは本当に会員証が必要なんだね」
こそこそとマオちゃんにそう耳打ちすれば「キレイすぎる水に魚は生きられないからね」と返ってきた。
答えになってるんだか、なってないんだか。
バーの中はシンプルな作りで、照明は暗めに設定されていた。
一面ガラス張りの作りで、夜景が一望できた。
まだまだ明かりがついている会社が多く、残業代出てるのかなぁ、と他人事ながら心配してしまう。
「ほら、みのり行くよ」
マオちゃんに促され、みのりはつんのめりそうになりながらも足を進める。
バーの中には人がまばらにいた。
こう、いかにも「できる人です」という貫禄を出した渋いおじさんが多いかと思ったがそんなことはなかった。
若い人もいればそこそこに妙齢の婦人もいる。
外国の出身らしき青年と女性が、みのりにはわからない言語で話している横を通り過ぎる。
発音の力強さから言ってドイツ語かな?と思ったが確信は持てない。
ただ、二人とも結構がっちりした体つきをしていたのでゲルマン系だろう。
「みのり。あんまり人のことジロジロ見ない。失礼でしょ」
「あ、ごめん」
マオちゃんに注意されて慌てて前を向く。
いけない。
また私の悪い癖が出でしまった。
何か気になることがあると、じっと見つめて考え込んでしまうのだ。
考え込む対象が物だったら誰にも迷惑をかけないのでいいのだが、人だった場合は見られる相手の気分も悪いだろう。