私の愛しいポリアンナ





「みのりちゃんも、昔は怒ってくれたんだ」


ちょうど考えていた女性の名前が、タツヤの口から出てきた。
秋は、なぜか少しだけ救われた気がした。

一応、タツヤの頭の中にみのりは存在しているらしい。
完全な一方通行だというのは明白だが。
それでも、彼の頭の1割未満の部分にでもみのりが引っかかっているのだという事実で、彼女の努力も無駄骨ではなかったのだと思える。

秋のそんな心情を知らずに、タツヤは話を続ける。


「この前も、俺がジュンナちゃんを連れてるとこ見たくせに、みのりちゃん怒ってくれないんだもん」


ふてくされたような話し方。
秋はゆっくり、まばたきをした。


「俺、みのりちゃんに怒ってもらえると思ったのに」


ジャリッっと、足元の音。
頭の中は真っ白だった。
彼に抱えられた少女のことも頭になかった。

ただ、気付いたら秋は、全力でタツヤの右頬を殴っていた。

生まれてから二十数年。
清く正しく大切にされ生きていた秋は、この日、初めて人を殴るということを経験した。






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