私の愛しいポリアンナ
ようやくバーのカウンターにつき、何か一杯、頼もうということになった。
ここでは「とりあえずビール」なんて言ったらマオちゃんに小突かれるだろう。
「大衆居酒屋じゃないんだから!」とプリプリ怒る姿が目に浮かぶ。
フフフ、と笑みをこぼすみのりにマオちゃんは訝しげな目を向ける。
気をとりなおして、何かお酒を頼もう。
バーで初めに飲む一杯、定番は何だろう。
ギムレットとかマティーニとかのすぐに飲みきれるのを小手しらべに頼むべきか。
ムムム、とみのりが考えている間にもマオちゃんは「カミカゼで」と頼む。
よくそんな度数高いのを最初に頼むなぁ。
みのりは無難にカシオレにしておいた。
バーテンダーが手際よくお酒を作ってくれるのを見ていたら、マオちゃんが申し訳なさそうに言い出した。
「あと10分くらいしたらここに兄さんが来るんだよね」
「コンニャク社長?」
「まだ継いでないけど、いずれはそうなるね。で、私、兄さんとお祖母様の三回忌の打ち合わせしたくてさ、悪いけどみのりは一人で時間潰しててくれない?」
ここの代金は兄さんが持ってくれるから、とマオちゃんは言う。
そこまでお世話になれないよ、と遠慮しようと思ったが一等地にあるバーの会計なんて恐ろしい。
有り難くお世話になることにした。
最近、「自家製コンニャクゼリー」とかいう新商品も売れてるらしいし。
「蒟蒻畑に怒られないの?」と言ったらマオちゃんに無言でチョップされたことを思い出す。
「わかった、いいよ。私は誰かと適当に話してるから」
「いい?とりあえず勢いに乗ってる人と話すのがみのりにとって一番いいと思うから」
「私にとって、一番いいの?」
「そう!人は周りに影響されるからね!みのりも勢いに乗らなきゃ!」
乗るのよ!ビッグウェーブに!と押してくるマオちゃん。
マオちゃんって新発売のiPhoneを発売初日に買いに行くタイプだろうか。
みのりはバーテンからカシオレを受け取りながらそんなことを考えた。