私の愛しいポリアンナ
ある程度距離が出たところで「はぁ」と秋の大きなため息が聞こえた。
けれどみのりは何も答えない。
「そんなにブスくれるな。タツヤの情報持ってる人に会わせてやるから」
その秋の言葉に、現金にもみのりはパッと顔を上げた。
タツヤの情報?
ようやく見た秋の顔は、ほのかな闇の中でもはっきりわかるほど疲れ切っていた。
「だからもうあんなとこでごねるのはよせ。本当に今の鹿川は危ないんだ」
「最近の暴動が過激化していることくらい知ってますよ」
「知っててなんで行くんだあんたは」
「愛の前では些細な問題ですから」
さらりと愛という言葉が口からでた。
秋は嫌そうに顔をしかめたが。
「頼むから警察の仕事を増やすな」
「はいはい。で、タツヤの情報を持ってる人は?」
「あの駐車場で料金まけてくれた爺さんだよ。すぐ近くにまで来てくれているから、さっさと向かおう」
そう言って、自然に腕から手へと掴む場所を変えて歩き出す。
少し歩いたところに、秋の白のビートルが止まっていた。
そして中には、みのりたちが鹿川で初めて会った駐車場の老人がタバコをくわえて待っていた。
「爺さん、車内は禁煙だ」
しかめっ面の秋がそう言って助手席のドアを開ける。
みのりは促されるままに助手席に乗る。
「このままどこかへ行くんですか?」
「いや。話すのに車内の方がやりやすいと思っただけだ」
みのりは、車を規制がかかる手前の道に止めてきたので、このまま鹿川を離れたくなかった。
鹿川近くに車を一晩置いておくなんて絶対に嫌だ。
明日の朝に私の愛車がどうなっているかわかったものではない。