私の愛しいポリアンナ
タツヤはぼーっとしてるし、ドジだし、すぐにいろいろなことを忘れる。
タバコの銘柄なんててんで覚える気がない。
揚げ物の入れ替えでもべちゃっと何個か落としている現場を見た。
だけどタツヤは持ち前のニコニコ能天気な笑顔と、生来の甘えた口調があり、客や店長にこっぴどく怒られている現場は見たことがなかった。
愛嬌で許される世界がであれば、タツヤもそれなりに生きていけるんだなぁ、と。
なぜか親のような気持ちでみのりがタツヤの働きを見ていた頃。
店のお金がちょくちょく盗まれていることを、店長が切り出したのだ。
「『お前だろ』って一言、タツヤに言っただけで、その日のうちにタツヤはクビになったんです」
「あんた、その時タツヤの味方したんだろ」
「そうですよ。だってタツヤにそんなずるいことできるわけないって、信じてましたから」
でも、盗んでたんですね、タツヤ。
みのりは小さく呟く。
頭は悪いしぼーっとしてるけど、そんなことするわけないと、みのりは信じていた。
なんなら、その時突然タツヤをやめさせた店長に怒りさえわいていた。
「タツヤはあんたが思うほどいいやつではなかったし、大人はバカじゃなかったってことだ」
秋はそうつぶやいた。
それで、この話は終わりだ、とでも言うように。
窓の外が見慣れたものに変わっていく。
そろそろ私の家だ。
明日から、どうしようか。
いや、どうするも何も、普通に仕事して、休みにはたまった洗濯物を片付けて、それで。
たまにタツヤのことを思い出して、私は沈むのだろう。
車のスピードが落ちる。
秋は本当にみのりの家の前まで送ってくれた。
ゆっくりと道の脇に停まるビートル。
完全に停まってからも、みのりは数秒動けないでいた。
秋が面倒くさそうにサイドレバーを叩く。
「もう鹿川には関わるなよ。新しい男でも作れ」
そんな簡単に作れたら苦労しないわ。
もうみのりには突っ込む気力もなかった。
とうとうさっさと降りろ、というように手を振られたので、ノロノロと車から降りる。