私の愛しいポリアンナ
思春期から今までの十数年間をタツヤのために生きてきた女、それが私。
長い長い片思い(執念)はもはやみのりの生きる意味とも等しくなっており、今回の秋が暴いた鹿川騒動でタツヤを失ったみのりに残されたものは空虚だった。
飲み終わった後の空き缶と同じ。
ほぼ空ではあるが、ほんの一滴、ニ滴ほど中身が残っている。
その一滴は仕事、日々のルーティーン、得意な料理くらいの必要最低限のもの。
私のアイデンティティはほぼほぼタツヤで形成されていたのだなぁ、とみのりは実感した。
突然天然キャラを辞めて生きる屍状態になったみのりに、マオちゃんもミヨちゃんも大層心配してくれた。
そんな空き缶のみのりではあるが、さすがに空のままで生き続けるわけにはいかないだろう。
何も執着がなくなってしまった状態では、ある日ふらっと仕事を辞めて、流れるように首を吊ってしまうかもしれない。
ベッドの上に大の字になり、みのりはぼんやりと考えた。
天井のシミを数えるのももう飽きた。
先程から携帯がバイブしてメールの着信を告げているが、腕を動かすのもめんどくさい。
ミヨちゃんかマオちゃんかな。
それとも主任かもしれない。
仕事にはちゃんと行っているはずなのに、仕事中の記憶が一切ない。
ゾンビ状態でいい仕事が出来るわけないから、クビを切られるかもしれない。
まぁ、失業してもそれはそれでいいか。
もうどうにでもなれ。
そんな気分で腐っていたみのり。
しかし、そんなみのりをマオちゃんは放ってはおかなかった。
持つべきものは友達だろう。
昼休憩の喧騒の中、少し控えめに声をかけてくれた。
「みのり、何かあったの?」
「失恋」
「あらあら」
ぼーっとしたしかばね状態のみのりの返答に、マオちゃんはなぜか安心したように笑った。
人が傷心中なのになんで笑うのだ。
むすっとしたみのりに、マオちゃんは笑みを深める。