初恋のクローバー
「……………あ、」
気づけば円を描いた透明な粒が、まっすぐに頬を伝っていた。
ぼやけていく視界の中で、彼女の姿を思い浮かべる。
「……そっか………また、走るんだ……」
自然と、笑みがこぼれてくる。
俺が憧れていた女の子が風結だとわかった時、また彼女の走りが見たいと思った。
ずっと理想だった、彼女の走る姿をもう1度見たいと思った。
でも彼女が陸上で苦しい思いをしてるとわかって、それを伝えることはなかった。
「よかった……」
また、彼女の走る姿を見れる。
それ以上に、彼女がまた走ることを楽しく思えるようになったことに、言い表せない嬉しさがこみ上げてくる。
『君が未来のために今をかける意味がないと言うのなら、私が君の未来になりたい。
私が、君がまた走り出すための、
意味になりたい。』
「……っ、」
手紙に書かれたその言葉に、目に溜まった涙がまた落ちてくる。
『私が陸上に戻る意味を、君が作ってくれた。
だから今度は、私が君の意味になりたい。
中学の頃の私みたいに、
これからの私が、君の走る意味になりたい。
君に私の、最高の走りを届けたい。』
「………ぅ……っ、…」
その言葉だけで、もう充分すぎるほどの意味が見つかる。