初恋のクローバー
確かな力強さを帯びた瞳で、澄み渡った空を見上げる。
「……見ててね、和哉くん」
同じ空の下にいる彼を想って、1人静かに言葉をこぼした。
「────見てるよ、ずっと」
「……………、」
彼を想いすぎて幻聴が聞こえたのだと、そう思った。
でもそれにしては、やけにリアルに後ろから
届いた彼の声。
半年も聞いてない彼の声を、こんなに鮮明に思い出すことが私の技量でできるのかと不思議に思ってしまう。
「なんでハテナマーク浮かべてるの?」
「────っ!、」
クスクスとこらえるような笑い声とともに聞こえた彼の言葉に、私は今度こそ後ろを振り返った。
「っ……か、ずや…くんっ……」
目の前に凛と立つ彼の姿に、半年ぶりに涙がこぼれた。
1番最後に泣いたのは、彼の入院する病院に行ったあの日。
彼の不幸を、無力な自分の情けなさを、
涙という形で吐き出すことしか私には方法がなかった。
けれど同時に彼から貰った言葉に支えられて、仲間の元に戻ることができた。
時には嫌な気持ちになることだってあった。
感覚を取り戻せない自分の体に不安を抱えたことだってあった。
それでも泣かないでここまで頑張ってこれたのは、彼の存在や言葉があったから。
ずっと、彼を想ってきた。
自分から会いに行くことはいつだってできた。
けれど彼に会ってしまったら、
彼がもしあのまま歩くことさえ諦めてしまっていたら、
彼の大好きな陸上を、私が続けていく。
そんな自分勝手な罪悪感に押しつぶされて、今の私の決心が揺らいでしまいそうな気がした。
でも今、ずっと想い続けてきた彼が目の前にいる。
私の目の前で、まっすぐに足を伸ばして立っている。
それだけで私の目からは、半年分のしずくが洪水のように止まることを知らず溢れ出した。