初恋のクローバー
「ご、ごめんっ!泣かせたかったわけじゃなくて……」
私の顔を見ると、彼はアワアワと慌てた様子で言葉を紡ぐ。
「…っ、…ふふ」
そんな彼の戸惑う姿がおかしくて、私は泣きながら笑みを浮かべた。
「え?な、なに?」
「……ううん。和哉くんの戸惑ってるところなんて初めて見たなぁ、って思って」
「そ、そうかな……風結には割と色々な顔を見せてきたと思ったんだけど…」
「ふふっ……うん、そうだったかも」
和やかな会話を続けていれば、流れていた雨も次第に止んでいって。
最後に目尻に溜まった粒を手で拭ってから、私は口を開いた。
「……久しぶりだね、和哉くん」
「!うん、久しぶり……」
「足……治ったの?」
彼の足元に視線を移しながら言うと、彼も視線を落としながら答えた。
「……うん。手術をして、リハビリも必死にやった。途中で何度も諦めそうになったけど、ここまで頑張れたのは風結のおかげだよ」
「私の…?」
「…手紙、読んだよ。お守りも、今も持ってる」
「……!」
ちゃんと、届いていた。
彼の元に、私の心はちゃんと伝わっていた。
「あの手紙とお守りがあったから、俺はまた走る意味を見つけることができた。
…風結が、俺の走る意味になってくれたんだ」
「……っ!」
私が、君の未来になれていた。
君がまた走るための、意味になれていた。
君の力になることができた。
それを知れただけでまた、胸に熱いものがこみ上げてくる。
「よ、かっ…た……ほん、とに…よかった、っ」
「うん。ありがとう、風結」
彼の言葉に、私はただただ首を振った。
君が頑張り続けたから。
君が必死に前を向き続けたから。
だから、君はまた走ることができる。
私の気持ちは、君がまた走り出すためのスタートでしかない。
それでも、君の支えに少しでもなれていたことが、こんなにも私を嬉しくさせる。