初恋のクローバー
「俺も、大会が来週あるんだ」
「……来週、走るの?」
逆算してみても、来週までに万全の状態で彼が走れるのかはわからない。
「うん。まだ復帰してあまり時間は経ってないけど、自分のやれるところまで精一杯頑張りたい」
「……!」
彼の強い意志を宿したその瞳が、抱いていた私の不安を消し飛ばしてくれる。
「そっか……うん、応援してる」
「ありがとう。あ、でも目標はちゃんと、インターハイ出場だから」
「あははっ。うん、私も」
「……なんか、風結と同じ目標を持ってるって
ちょっと不思議な感覚だな」
「確かに……ふふ、嬉しい」
「…うん、嬉しいね」
大好きな人と、大好きなことで同じ目標を持ってる。
どこにでもありそうなそんな幸せが、こんなにも胸を暖かくさせてくれる。
「………風結」
「うん?」
名前を呼ばれて顔を見上げれば、彼はあの優しい微笑みを見せてくれる。
「沢山の幸せを俺にくれて、ありがとう。俺の初恋の相手が、風結で本当によかった」
「…っ!」
こんなに嬉しいことって、他にない。
自然と笑顔を浮かべていれば、彼はポケットから何かを取り出して私にその手を重ねた。
「……!」
パステルグリーンの生地につけられた、葉が1つだけのクローバーのアップリケ。
半年前に彼に渡したそのお守りは、私たちの手の中でまるで宝石のように輝いて見える。
「約束する。絶対に、一緒にインターハイに行こう」
「っ、……うんっ!約束!」
私たちを繋げてくれた、クローバーに誓って。
1枚の葉に2人分の願いを込めて、私たちは笑みを交わした。