初恋のクローバー
「……ハァ……ハァ………ッ…」
肩を上下させながら、ジャージ姿で溢れかえる人混みの中を駆けて行く。
泣いている人、笑っている人、肩を抱き合って喜んでいる人。
瞬時に顔を確かめながら進んで行くけれど、探している彼女は見当たらない。
「ハァ……ハァッ……」
そういえば父さんが、彼女の中学で全国に出場しているのは彼女と男子1人だけだって言ってたっけ。
もしかしたら、もう帰ったのかもしれない。
俺は急いで会場の外に出た。
「────いた……っ!」
周囲を見渡していると、バスの段差に足をかける彼女の姿が視界に映った。
ジャージに身を包んでバスに乗り込む彼女。
少し離れた場所にいた俺は、彼女の顔をはっきりと見ることができなかった。
唯一、覚えたのは、肩からかけたスポーツバッグにつけられたあるもの。
パステルグリーンの生地に、なぜか一枚の葉しかないクローバーのアップリケが付けられたお守り。
一つ葉のクローバーなんて初めて見たから、俺はこのお守りを忘れることはなかった。