初恋のクローバー


焦点を合わせた先に、はっきりと映った彼の姿。


他の人たちと比べて、何かが特別に変わっていたわけでも、何かが目立っていたわけでもない。


ただ、スタートラインに立つその凛とした姿に、目を惹かれた。


さっき無名でいきなり決勝まで残るなんて凄い、と言ったけれど陸上ではそんなこと普通に起こる。


中学で伸び悩んでいたけど高校に入って急激に成長する人もいれば、逆に、高校で低迷し続けてしまう人もいる。


言ってしまえば陸上は、努力はもちろんだが、才能の有無も必要な競技なのだ。


だから私はこの時、彼から沸き立つ圧倒的な才能に魅せられたのかもしれない。


この会場中でただ1人、私だけが、彼の強さを見抜いたのかもしれない。


「おい、風結!聞いてるのか?あいつだよ、第5レーンにいるや…「わかってる」……え?」


目を点にさせるヒロを見ないまま、私はただ
まっすぐに前の光景を見つめる。

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