初恋のクローバー
「……和哉、最近どうしたんだよ?」
「えっ?」
声を聞くと必ず眠くなると言われている先生の授業を受けたあと、窓の外を眺めていると部活仲間のガクが唐突にそんなことを言った。
「別に、どうもしてないよ……?」
苦笑しながら否定すれば、ガクは呆れたようにため息をつく。
「お前の嘘はすぐわかるんだから、隠してないで正直に言え」
「あはは………実は、電話を…しようか迷ってて」
「あぁ、俺が呼びに行った時に揉めてた相手か」
「揉めてないよ!ただ、彼女の勢いが凄かっただけで……」
「それで?なんで迷ってるんだよ?
一方的に番号渡してきて走り方に文句つける相手に、電話なんかする必要ないだろ」
「ズバッと言うね……」
真顔で放ったガクの言葉に苦笑いで返しながら、俺はあの日のことを思い出す。
「でも彼女……必死だったんだ。俺の走り方はあんなのじゃないって……。自分でも思ってたことをはっきり言われて、もっと頑張らないとって思えた……」
今にも突っ込んできそうな勢いで言った彼女の言葉と、まっすぐにこっちを見つめる瞳が、頭から離れない。
『あなたには、圧倒的な陸上の才能がある!
それに見合う努力もしてる!
そんな人が、あんな走りが全力なわけない!』
「才能に見合う努力……か」
俺は無意識にクスッと笑った。