初恋のクローバー
県総体で1位をとった時、周りからさんざん言われた。
『才能がある』
別に、言われて嫌なわけではなかった。
嬉しい気持ちだって確かにあった。
ただ、才能だけではないことを知って欲しかった。
中学の時、俺が通っていた学校には廃部寸前の陸上部しかなかった。
でも走ることが好きだった俺は迷わずに入部した。
部員数は片手が余るほど。
走りを教えてくれるコーチもいない。
ずっと変わらない環境で、陸上をやり続ける意味を探していた時にある出来事があって、俺は今も陸上を続けられている。
結局、中学の3年間はそのまま終わってしまったけど、俺は高校でも陸上部に入部した。
高校の陸上部は、部員はいたけれどコーチがいなかった。
転機が来たのは、高2だった。
2年生に進級した俺たちの前に、コーチが現れた。
体作りをして、走りを教わって、
練習を重ねるたびに自分が上達していくのが嬉しかった。
挫折しそうになったこともあったけど、中学からやり続けた4年間があったから、今の自分の走りがある。
楽しかったことばかりじゃない。
むしろ、苦しいことの方が多かった。
でも、努力し続けたから苦しいことを乗り越えられたんだと、知って欲しかった。
決して才能だけで勝ったわけではないと、知って欲しかった。
だから彼女に言われた時は、
言葉で言い表せないぐらい嬉しかったんだ。
「……俺、彼女に電話するよ」
自分の気持ちを確認して伝えると、ガクは「緊張して情けない声だすんじゃねーぞ」と言って優しく笑った。